本文書の情報は、ベトナムの環境分野の主な問題の一部と、その対応のために世界銀行が実施しているイニシアティブの一部を紹介したものである。
概要
ベトナムの環境は、経済発展や都市化により、また比較的乏しい天然資源への人的プレッシャーが高まる中、かなりの危険にさらされている。環境規制の枠組みは徐々に改善したものの、ベトナムにはその実施能力が極めて乏しい。従って、急成長が続くと環境破壊がさらに進むと懸念される。
環境・政治的枠組み
環境面の課題に取り組むため、ベトナムは環境上持続可能な開発のための政治的枠組みを大幅に改善している。最近の事例としては、環境法を改正して環境アセスメント(EIA)のプロジェクト審査条件を引き上げたことや、ベトナムで最も深刻な汚染者に対する規制を強めたことが挙げられる。
天然資源の管理においても、森林再生プログラム拡大や野生生物の非合法取引に対する規制強化などの前進が見られた。また、包括的流域管理のメカニズムも水資源法にのっとり構築されつつある。ただし、人的能力や財源の不足のせいで、政策面や制度面での進歩が損なわれている。
制度的枠組みと能力
環境管理のための政治的・制度的枠組みは改善しつつあるが、計画立案能力や実際に環境持続性を達成する能力はなお低いままだ。このほど環境・天然資源省(MoNRE)が設立されたことは前進だが、制度の権限をより明確にし、キャパシティビルディングを推進し、環境面でセクター間の調整を改善する必要がある。加えて、県や地域レベルでの環境管理能力は今も極めて低い。
世界銀行は以下の取り組みを通じて環境分野での能力育成および管理ツールの開発を支援している。(a)環境分野の主要な問題に焦点を当てた環境モニター報告書を毎年作成(b)貧困と環境の関係に関する調査を支援 (c)京都議定書のクリーン開発メカニズムに関する国家戦略調査を推進(d)国レベルで環境への影響を評価する能力を育成。世銀は将来的に、包括的な国家環境分析と環境情報開示プログラムの拡大を支援する計画である。
産業公害
産業公害は、国営企業の一部(石油、ガス、電気、セメント)が急成長したのを受け、1990年に対国内総生産(GDP)比20%だったのが、2000年には37%にまで拡大した。これらの企業は、古い設備、不十分なコントロール、排水や排ガス放出への対策が不十分だったため、環境面での対応があまりできていない。多くの産業公害は環境衛生上大きなコストを生じている。ベトナム政府は廃水による汚染に課徴金を課することにすると共に、首相の決定として、工場の移転・閉鎖あるいはもっと環境に配慮した技術を採用することとしたが、こうした政策は効果的に実施することが必要だ。
世銀は、民営化、移転、閉鎖措置を組み合わせた国営企業改革が環境面に与える影響を管理するのを支援している。
天然資源管理
土地の劣化は、特に高原地方において深刻な問題である。その主たる原因としては、不安定な借地制度、乱伐採、日照り、土壌塩化、酸性化が挙げられる。特に今や、北西部の劣化した急斜面や破壊された森林は、豪雨の際に土壌浸食を起こす可能性が極めて高い。最近になって森林面積が増えたものの、森林の質には懸念が残る。樹冠の閉じた森林は今も全森林面積のわずか13%にすぎず、荒廃した森林と再生途上にある森林が55%を占める。一方、植林された森林は1990年の0.7mha(植林可能面積)から2000年は1.6 mhaに増えた。
世銀は、ベトナムにおける複数のドナーによる森林管理プログラムを率いるパートナーとして、現在、大規模なコミュニティ・ベースの森林開発プロジェクトに財政支援を行っている。
漁獲高は1990年から2001年の間に2倍以上に増えたが、現在は漁業努力当りの 漁獲量(CPUE)が減少傾向にある。水産養殖の急拡大がマングローブと湿原の大幅な減少を招き、沿岸漁業漁獲高について懸念が生じている。さんご礁も危機に瀕しており、ベトナムのさんご礁は「きわめて大きなリスクに瀕している」と分類されているものが東南アジア地域のほかの11カ国と比べて多い。世銀は環境面の責任を果たす形での水産養殖を支援しており、ベトナムが初の海洋保護区を設立するのを手伝っている。
ベトナムでは、水面、地面、沿岸が汚染によって脅かされている。上流の河川の水質はおおむね良好だが、大きな河川の下流部分の水質は悪く、都市部の湖や運河の大半には急激に汚泥が蓄積しつつある。沿岸部の急激な都市化と工業化、沿岸部の観光拡大、石油流出の増加などすべてが、沿岸部の水質悪化の原因となっている。世銀は下水・廃水処理へのアクセス拡大を重視した支援を進めている。
ベトナムは世界でも10の指に入る生物多様性の高い国だが、野生生物の非合法取引という深刻な問題に直面している。植物や動物の絶滅危惧種の国際市場として、供給者としても、隣国で捕獲した種の取引ルートとしても中心的役割を果たしている。この問題に対処するための行動計画が策定されたが、資源が不十分なため、その実行は限定的なものとなっている。オランダや地球環境ファシリティー(GEF)とのパートナーシップの下、世銀はベトナムが、国家保護区への資金提供と技術協力メカニズムとしてのベトナム生物多様性保護基金を設立することでこの制約を克服するのを支援している。
都市環境サービス
急速に進みつつある都市化に追いつくために、都市インフラと環境サービスに多額の投資が求められている。都市人口の多くがサービスが不十分なスラム地区に住んでいる。水道、下水、廃水、舗装道路などが不十分なこうしたスラムの人口は増加傾向にある。ホーチミン市だけでそうしたスラムの人口は30万人に上る。
十分な降水があるにもかかわらず、不十分なインフラと司法管轄の責任分担がわかりにくいため、都市部・農村部ともに給水量は需要を満たしていない。飲料水は現在ベトナム人口の60%に供給されているが、80%程度への早期供給率向上が目標とされている。灌漑は、2000年には全需要の84%に当たる766億立方メートルと、水資源にとって最大の負担となっている。1999年から2003年までに、水媒介性の病気が約600万件(6種類)報告され、少なくとも2700万ドルのコストが発生した。
都市部や工業地帯、農地からの汚水や流出した水が水面や地面、沿岸水を汚染している。湖や川、運河などの水塊は家庭排水や工業廃水の溜まり場になりつつある。都市部と工業地帯のほぼすべてで空気が、微粒子や酸化鉛、亜酸化窒素、二酸化硫黄、一酸化炭素など、車や工場、発電所、家庭から排出されたさまざまな汚染物質の影響を受けている。工場近くの二酸化硫黄のレベルが国の定めた基準を上回ったことも数回に上る。家庭のごみ収集の効率もいまだ低く、有害廃棄物の分別回収も実施されていない。
世銀は都市部の水道・下水・汚水処理施設をいくつかの大都市で拡大するのを支援している。GEFとのパートナーシップの下、まもなく業務畜産廃棄物管理のデモンストレーション・プログラムを発表するところだ。さらに、ハノイで世銀は環境持続可能性のより高い交通システムを推進しており、ベトナムがメコン川流域におけるメコン川の水質と水利用の決定を改善するための隣国との取り組みを支援している。
オゾン層破壊と残留有機汚染質(POP)
ベトナムは今もオゾン層破壊物質(ODS)の生産国であり消費国でもある。この問題に対処するためモントリオール議定書執行委員会(Excom)は2004年12月に国家フロン・ハロン段階的廃止計画(National CFC and Halon Phaseout Plan)を承認した。このイニシアティブは、オゾン破壊物質の段階的廃止と代替物質への移行のための達成可能な手段を見極め、適用しようというものである。このアプローチは中国のODSプログラムから教訓を得ている。
ベトナムは東アジア地域でいち早く、残留有機汚染質(POP)削減のためのストックホルム会議を批准した。POPは産業界で消費され、農業生産性を高めるために殺虫剤として使用されるほか、さまざまな工業プロセスの副産物として意図せず生み出されている。その危険性についてほとんど知識のない農夫の家庭内に保存されていることが多いため、不慮の被毒の一番の原因となっている。POPがヒトの健康や環境に与える影響を認識したベトナム政府は、国がストックホルム会議の条件を満たせるよう積極的に準備を進めており、最近、世銀に対してPCBの管理・廃棄についての支援を要請した。