勝茂夫副総裁、西尾IDA局長 共同執筆「開発援助、多様化へ対応を」

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国際的な開発援助構造の多様化が進んでいる。日本の政府開発援助(ODA)削減傾向が続く中、主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)などの開催を来年に控えた今こそ、開発援助政策を練り直す好機だ。世界銀行グループのような国際機関の戦略的活用が一つの選択肢となろう。


国際的援助政策協調と調和必要

 最近の国際的な開発問題に関するキーワードは「国際的な援助構造の多様化」である。まず注目すべきなのが、国際援助の新しい担い手の登場である。先進国を中心とした伝統的ドナー(援助国)に加え、かつては被援助国であった中進国が新興ドナーとして国際援助の表舞台に登場し、その活動が活発になっている。また、教育・保健医療分野を中心に特定分野に特化した数々のグローバルな基金やビル・ゲイツ財団のような巨大な民間非営利組織からの資金量も急増している。

 こうした潮流とともに、援助チャネルも拡散した。例えば、援助受け入れ国一カ国あたりのドナーの平均数が、一九六〇年代の十二から二〇〇〇年代初頭には三十三を超えるまでに増加するなど、援助プログラムは細分化され、エイズのような特定のテーマに資金使途を限定した縦割り支援も増加している。こうした傾向は、資金と開発ニーズとの不一致につながる面もあり、受け入れ国側の実施体制や制度が未整備の場合は、援助資金の実効性を損なうリスクがある。

 日本を含めた既存のドナーは、〇五年三月に主要な援助国・機関が集まり援助効果の向上を目指し数値目標を定めることを決めた「パリ宣言」に象徴されるように、援助の国際間の協調・調和をより真剣に追求することが急務になっている。

 こうした構造変化のもと、先進諸国が軒並みODAを増額し、新興ドナーも登場するなか、長期にわたり日本のODAは削減傾向にある。また最近の経済協力開発機構(OECD)の調査で見られるように、他のドナー機関と共同でのミッション派遣や調査研究を行うという援助協調の点で、日本にはまだ改善の余地がある。

 一方、日本政府は、官邸の「海外経済協力会議」や外務省の「国際協力に関する有識者会議」などで、ODAをめぐり、外交政策の援助方針への一層の反映、援助手法間の連携強化、手続きの迅速化、コスト縮減、現地機能の強化、人材の育成などに課題があると指摘され、これらへの取り組みを進めている。

重要性を増す共通基盤概念

 来年、北海道洞爺湖サミットの議長国やアフリカ開発会議(TICAD―)の主開催国となる日本は、気候変動問題などを含む開発分野の国際的議論をリードする千載一遇のチャンスを得ることになる。

 これはまた、日本が国際的な援助潮流の変化を見据え、柔軟かつ戦略的な援助政策を打ち出し、他のドナーとも協調を図りながら、バイ(二国間)の援助だけでなく、国際機関経由のマルチ(多国間)の援助の枠組みを戦略的に活用していく道を模索するための絶好の機会ともいえる。

 そうした中で重要となるのが、国際的な援助の協調・調和における「プラットフォーム(共通基盤)」という概念だ。それはつまり、伝統的なドナー、新興ドナー、グローバルな基金などの活動の調整を行い、また他のドナーや相手国が活用可能な形で、過去の経験に基づく開発ノウハウ、体系的な調査・分析活動の結果を提供することで、国ごとの援助の有効性を高める役割を果たす機関の必要性が、国際的に強く認識されているということである。中進国などの新興ドナーを国際的な枠組みに調和させていくという観点からも、プラットフォームは大きな役割を果たしうる。

 この点で、世銀グループの中で約八十カ国の最貧国を支援する機関である国際開発協会(IDA)には、この援助プラットフォーム提供に関して以下のようないくつかの優位性がある。

 すなわち、第一にIDAは特定のセクターだけを取り扱うのではなく、インフラ整備から、教育・医療保健などの社会セクターに加え、公的財政管理、環境までセクター横断的な支援を行っている。第二に現場への権限委譲を進め、日常的に相手国政府だけでなく、他のドナーや民間セクター、さらには非政府組織(NGO)や地域住民、農民団体といった市民社会と接触し、個別国の事情に即した開発戦略策定に深く関与できる。さらに、高い調査・分析能力を有し、グローバルな経験に根ざした開発のノウハウを国・地域を超えて伝えることもできる。

 今月十三、十四日に独ベルリンでの会合で終結する見込みのIDA第十五次増資交渉(IDA15)では、多様化する国際的な援助構造の中で、そのプラットフォームとしてのIDAのそうした役割に対するドナー諸国の期待が、これまで以上に高まっていることが鮮明になった。

 特に先月のアイルランド・ダブリンでの会合では、ほとんどのドナーがIDA15の増資に対し強い支持を表明した。

その背景には、このように国際的な援助プラットフォームとしてますます重要な役割を帯びるIDAを活用して、自国の政策実現、援助効果の向上につなげようとする各国の戦略がうかがえる。例えば、英国はその援助政策の達成手段として、IDAなど世銀グループを活用する方針を公表しており、前回のIDA14では大幅な増額を果たして日本を抜き米国に迫る第二のドナー国となった。

 こうした各国の援助政策をめぐる議論もまた、日本が開発援助戦略を練り直すチャンスを迎えたことを意味しているかもしれない。つまりプラットフォームという存在を活用することによって、日本が以前から力点を置いてきた経済インフラ整備など開発のハードな面とソフトな面、つまり途上国の開発戦略策定などの政策面や実施組織の強化のような制度面とのシナジー(相乗効果)を高め、いわばより複眼的な援助戦略を組み立てられるということだ。

 そうした開発のハードとソフトを同時に志向する複眼戦略と同時に、二国間援助と有機的な連携をとりながら、マルチ機関のより積極的な活用を通じて日本の政策実現を果たすことで、日本のリーダーシップを一段と発揮するような方向を模索できることにもなる。

国際開発協会が有力なツールに

 日本がIDAを日本の援助政策の有力なツールの一つとして活用した事例はこれまでにも数多い。例えば、ベトナムで、開発戦略策定の上流部分で世銀などと連携して、投資環境整備につながる政策を当該国の開発戦略の中に反映させた。また、ウガンダのブジャガリ水力発電プロジェクトでは日本の円借款とIDAを含めた世銀グループとの連携・補完を実現させた。

 IDAを活用した援助の共同作業を通じ、相手国政府や他のドナー、市民社会などとの協調が深まることで、日本の二国間援助に対する理解度がさらに高くなり、「顔の見える援助」との目的も達成できよう。

 来年の洞爺湖サミットにむけて気候変動問題に関する議論が高まる中、気候変動問題は日本との連携が望まれる大きな分野の一つである。IDAが対象とする低所得国は、全体でみると温暖化ガスの排出量が最も少ないにもかかわらず、気候変動の負の影響(海面上昇、洪水などの自然災害、干ばつ)を最も受けており、気候変動への適応やその影響緩和が喫緊の開発課題となっている。

 こうした中、今後IDAの分析能力・資金供与力やプラットフォームとしての役割を生かし、他ドナー機関と協力しながら、低所得国への国際的な取り組みを本格化していくことが期待されている。当該分野で日本の先端的な技術とノウハウが果たせる余地は大きい。

 前述の通り、来年は日本が開発援助においてリーダーシップを発揮することがますます期待される年になる。IDAの出資に関し、日本のシェア(分担率)はこの十年で顕著に下がり続け、前回のIDA14では一二%台と、八〇年代初頭以来の水準に低下した。とはいえ、伝統的には米国に次ぐ最大のドナーの一つであり、従来通り日本の強い支援を期待する声は国際的に高い。

 IDA15に対する積極的な貢献とIDAの戦略的活用は、開発援助に対する日本の強いコミットメント(関与)を示すメッセージとなるだけでなく、援助構造が多様化していくなか、日本が自国にとって重要な国際的な開発問題に効果的に取り組むための、またとない機会をもたらすことになろう。

(2007年12月6日 日本経済新聞「経済教室」より転載)


 かつ・しげお 東京外大卒、ウィーン大修士。79年世銀入行
 にしお・あきひこ 一橋大経卒。英ケンブリッジ大修士。88年世銀入行




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