ローマの食糧サミットで、各国首脳が現在の世界食糧危機について話し合う。課せられた任務は明確だが簡単ではない。すなわち、現在危機的状況にある人々を救い、貧困層がこうした悲劇に再び見舞われることのないようにすることだ。
「静かな津波」に例えられる現在の状況は天災ではなく人災である。エネルギーと食糧の価格高騰の相関関係は終わりそうにないばかりか、世界的な気候変動により悪化するであろう。結果として、農業の生産・輸送コストが上昇する一方で備蓄食糧が減少し、食糧生産に利用されていた土地が代替エネルギー生産のため転用されるようになる。このように、エネルギー需要ゆえに食糧が不足するのが21世紀型の食糧危機である。
4月、150カ国の閣僚が世界銀行に集まり、世界的な食糧「ニューディール政策」への支持を表明した。来週ローマで開かれる国連食糧サミット、6月のG8サミット財務大臣会議、そして7月のG8北海道洞爺湖サミットは、行動に弾みをつけるための好機となる。我々は、裏付けのしっかりした政策的調整を促進する必要がある。そのための10項目からなる計画を提案したい。
第一に、今回の食糧サミットにおいて世界食糧計画(WFP)の緊急ニーズ対応のための資金を全額調達し、援助食糧の現地調達に向けた同機関の取り組みを支援し、制約を受けることなく人道援助を進められるようにすることについて合意しなければならない。
第二に、学校給食や受益者参加型事業の労働対価として食糧を支給するなどのセーフティ・ネットを支援して、深刻な状況に苦しむ人々を急いで救済する必要がある。世界銀行は、WFPおよび国連食糧農業機関(FAO)と協力して、すでに25カ国以上で緊急ニーズ調査を実施した。ローマの食糧サミットでは、調和のとれた行動について合意しなければならない。
第三に、特に貧困国の小規模農家には、作付け期に向け、種子と肥料が必要となる。FAO、国際農業開発基金(IFAD)、地域開発銀行、そして世界銀行は、シビルソサエティ・グループや二国間ドナーと協力することにより、この取り組みを拡大することができる。重要なのは資金調達だけでなく、物資が迅速に行き渡るシステムだ。
第四に、農業への過少投資という長年の流れを変えて、農作物を増産し、リサーチ費用を充実させなければならない。新たな技術を毛嫌いしてはならないし、特定の技術に拘ってもならない。国際農業研究協議グループ(CGIAR)には年間約4億5000万ドルが拠出されているが、今後5年間で研究開発向け投資額を倍増させる必要がある。
第五に、バリュー・チェーン全体で民間活力を生かすため、アグリビジネスへの投資を拡大しなければならない。持続可能な土壌・水資源の開発、サプライ・チェーン、消耗の抑制、インフラ・物流、途上国生産者による食の安全基準達成、途上国農家と販売業者との仲介、農業貿易金融の支援といった分野である。
第六に、小規模農家を対象にリスク管理と穀物保険の革新的手法を開発する必要がある。来週世界銀行理事会は、途上国向けの天候デリバティブについて検討予定であり、実現すればマラウィが第一号となる予定だ。万一マラウィが干ばつに見舞われた場合に、輸入トウモロコシとの価格差を埋め合わせる補償金を受け取るという仕組みである。
第七として、米国とヨーロッパにおいて、トウモロコシや脂肪種子を原料とするバイオ燃料に対する補助金、利用義務付け、関税を緩和するための行動が必要である。米国でエタノール製造のために使われたトウモロコシは、過去3年間の世界のトウモロコシ増産量の75%以上を占めている。政策担当者には、価格高騰の際にこうした政策を緩和する「安全弁」の検討が求められる。食糧か燃料かの二者択一のはずはない。米国や欧州連合の市場に輸入されるエタノールに対する関税を引き下げれば、食糧生産と直接競合することなく、燃料効率のよいサトウキビ・バイオ燃料の生産を促進することになり、アフリカ諸国など最貧国にとっての好機を拡大することになるだろう。第2世代のセルロース系エタノール実用化の道を探らなければならない。
第八に、世界の食料価格上昇を加速することになった輸出規制を撤廃しなければならない。インドはこのほど制限緩和に踏み切った。しかし28カ国がそうした制限を続けている。制限が撤廃されれば劇的な効果が期待できる。世界のコメ生産高のうち貿易に回るのはわずか7%に過ぎないため、もしも日本が人道目的のため備蓄の一部を開放し、中国が100万トンのコメを売りに出せば、価格は即座に落ち着くだろう。
第九に、WTOドーハ・ラウンドを妥結させて、農業補助金による市場の歪みを是正し、世界の食糧貿易をより柔軟で、効率的かつ公正なものとしなければならない。多国間のルールの必要性がかつてないほど高まっている。
第十として、世界的リスクに対応するための集団的取り組みを拡大する必要がある。エネルギー、食糧、水の問題は相互に関連し合っており、世界経済や安全保障の推進力となるものだ。G8および主要な途上国の間で、「地球公共財」を十分に蓄えるための合意を模索してはどうか。透明かつ明確なルールにのっとった国際エネルギー機関をモデルとすることも一案である。そうすれば、最貧困層が手頃な価格で食糧を入手できる保険として機能するであろう。
この課題に対応するため、世界銀行は世界食糧危機対応ファシリティを設立する。12億ドルのこの緊急融資制度は、今回の危機に伴う緊急のニーズに迅速に対応するもので、ハイチ、ジブチ、リベリアなど特に弱い立場にある国を対象に、種子、肥料、セーフティ・ネット・プログラム、財政支援に充てる2億ドルのグラントも含まれている。世界銀行グループは、農業および食糧関連の活動に対する援助全体を本年度の40億ドルから来年度は60億ドルに引き上げる。