| ロバート・B・ゼーリック 2009年1月25日
フィナンシャル・タイムス紙掲載 [仮訳]全文(英文)はこちらをご覧ください。 歴史家は西洋の歴史を、その時々の文化・経済・政治的価値観によって時代という単位で分類してきた。たとえば、暗黒時代、ルネッサンス時代、宗教改革時代、理性の時代といった具合だ。それでは、21世紀前半はどう定義されることになるのだろう。各国が輝かしい過去を再現しようとそれぞれ独自の解決策に訴えるような「逆行の時代」となるのだろうか。あるいは、失業問題の悪化を移民や外国人のせいにする「狭量の時代」だろうか。それとも、現在の明らかに深刻な状況を反映して、単に「衰退の時代」となるのだろうか。そのどちらでもないだろう。バラク・オバマ大統領がいみじくも名づけた「責任の時代」こそがふさわしく、またそうなるべきだろう。そのためには考え方を変え、米国、そして世界中で協力的な政策が求められる。 「責任の時代」とは、具体的にはどのようなものだろう。まず第一に、責任あるグローバリゼーションの時代として、少数の者の利益よりも、貧困層に配慮し持続可能であることが優先されよう。具体的には、貧困層のための機会、技術開発、マイクロファイナンスや小規模事業者への貸出、輸出国・輸入国双方に利益をもたらす貿易協定、そしてミレニアム開発目標を満たすに十分な水準の援助を実現する成長を生み出すことが重要となる。まずはドーハ貿易交渉の妥結と、誓約された援助が滞りなく拠出されるという再度のコミットメントが求められる。 第二に、地球環境を責任をもって保護することが求められる時代だ。本年12月にコペンハーゲンで締結されるであろう気候変動枠組み条約により、新たなテクノロジーを駆使した二酸化炭素削減への道筋をつけることができよう。 第三に、個人・システムの両面における金融に対する責任の時代だ。これは、ロンドンに主要国が集まって開かれるG20金融サミットにおいて、各国政府が協力して財政規律の枠組み内で財政拡張のための協力に合意するところから始まるだろう。また、金融市場の信認を回復し不良債権問題に取り組むことで、銀行の資本を強化し保護主義を封じ込める計画についても合意されるべきである。 第四に、責任ある国際協調の時代として、国や機関が共通の問題に対し現実的な解決策を模索することが求められる。たとえば、人道的食糧支援のほか、環境に優しいエネルギー源やエネルギー節約への投資を促すエネルギー価格、エネルギー税について合意を模索することだ。 第五は、責任あるステークホルダーの時代で、そこでは国際経済への参加が恩恵と共に責任をもたらす。これまでのように先進国だけが主導権を握る体制は、現在の経済の実態に根ざした、より幅広い関係国も交えた運営主体グループに道を譲ることになるだろう。この運営主体グループには、一致団結した行動と議論が課せられる。我々の目指す「責任の時代」は西側諸国だけのものではなく、グローバルなものとなることを目指すものだ。 これからの2、3カ月に今回の危機に我々がいかに対応するかで今後の方向性は決まる。第一歩として先進各国は、途上国の最貧困層を支援するため景気刺激策の0.7%を脆弱国向け基金に回すことに合意して欲しい。拠出金の分配は世銀が国連や地域開発銀行と共に管理することができる。我々は、迅速かつ柔軟な援助提供のために既存のメカニズムを使うことができる。我々のメカニズムでは、資金が正しく使われるよう監督が行われ、不正使用対策が講じられている。 昨年の食糧・燃料価格高騰に続く今回の金融危機は、最貧国や最貧困層にとって危険を増大させるものだ。信用収縮と世界的な景気後退で歳入が落ち込み、教育、保健、ジェンダー分野の目標達成能力が削がれている。出稼ぎ労働者からの送金も低迷し、外国投資・国内投資共に凍結され、貿易が落ち込み、社会不安が高まっている。試算によると、途上国の成長率が1%低下するたびに2000万人が新たに貧困状態に陥る。昨年の混迷の結果、すでに1億人が貧困に陥っている。 貧困国には次の3つの形での介入が求められている。景気後退が貧困層に与える影響を緩和するためのセーフティネット・プログラム、人々に雇用機会を提供しながら生産性と成長の基盤を築くインフラ投資、雇用創出のための中小企業への融資だ。脆弱国向け基金への拠出は、各ドナーが自国の関心にあわせてカスタマイズすることができる。このアプローチは、貧困国の銀行資本強化に対する日本の支援や、融資が途絶えた続行中のインフラ・プロジェクトへの暫定融資に対するドイツの支援の際、効果を発揮している。 この計画は達成可能なものだ。国連が定める援助目標はGDP比0.7%である。先進国がそれぞれの景気刺激策のうち0.7%を提供するという目標は、大手銀行救済のために注入された数億ドルと比べればごくわずかに過ぎない。それでも、自ら引き起こしたわけではない今回の危機の犠牲となって苦しむ数億人の人々にとっては、極めて大きな救いとなる。大切なのは、世界が危機によって役割を押し付けられるのではなく、自ら危機における役割を明らかにすることを選択するという能動的な関与の姿勢を発信することになる点だ。国際社会で協調した行動を起こすのか、それとも他国を犠牲にして自国を有利にしようという政策を選ぶのかが問われている。「責任の時代」か「逆行の時代」かの選択だ。どちらを選ぶべきかは明らかだ。 執筆者は世界銀行総裁。
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