ロバート・B・ゼーリック 2009年1月22日 ワシントン ニューヨーク・タイムズ紙掲載 [仮訳]全文(英文)は こちらをご覧ください。 オバマ大統領は就任後100日を経ずして、世界の首脳が集まるサミットにデビューすることになる。舞台は、先進国と途上国の首脳が 4月にロンドンに集まるG20会合だ。議会超党派の支持を受けているオバマ大統領にはぜひ、大胆な希望のシグナルを発信していただきたい。また大統領にはぜひ、米国を初めとした先進各国に対して、救済措置や債務返済のできない途上国を援助するための脆弱国向け基金に景気刺激策の0.7%を拠出する誓約を求めてほしい。 米国はまず手始めに、8,250億ドルの景気刺激策から60億ドル程度の拠出を誓約できるのではないか。この額は、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に注入された公的資金のわずか4%に過ぎない。米国はこの小さな一歩を踏み出すことにより、世界的な景気回復を加速させ、世界の貧困層を救済し、引いては外交における影響力の強化につながるのではないだろうか。 もはや一刻の猶予もない。経済危機によって既に推定1億人が再び貧困状態に逆戻りした。輸出低迷もあり、世界中で雇用が脅かされている。多くの国々で海外直接投資・国内投資が凍結されている。今のところ1997-1998年のような通貨危機には至らずに済んでいるが、2009年は危険な1年となるだろう。 明るい材料は、オバマ大統領が正しいシグナルを発信すれば、恐らく多くの国が脆弱国向け基金に資金を拠出する可能性が高いことだ。英国のゴードン・ブラウン首相はこの提案に興味を示している。また、フランスのニコラス・サルコジ大統領は昨年、援助の増額を呼びかけ特にアフリカに強い関心を示している。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は貧困国での建築プロジェクトを支援したいとしている。 日本はすでに、世界銀行による途上国の銀行資本強化への支援を誓約している。オーストラリアとロシアは、世銀が昨年設立した食糧危機対応基金を支援している。カナダは、この所援助を増額している。欧州委員会も援助増額について検討中だ。サウジアラビアは昨年、世界食糧計画(WFP)に5億ドルの緊急グラントを提供した。 2月のG8蔵相会議議長国であるイタリアには、脆弱国向け基金のための拠出金確保を優先課題と位置づけることによりG20への道筋をつけて欲しい。そうすれば世界銀行は、国連や地域開発銀行と協力して、不正使用への対策も講じながら、迅速で柔軟な援助の提供を進めるために同基金を管理していけるだろう。 脆弱国向け基金の投資には3つの優先課題がある。まず第一に、途上国の実施能力に応じた様々なセーフティネット・プログラムが必要だ。昨年の食糧および燃料価格高騰を受け、世銀は国連機関と協力して、労働の対価としての食糧支援、種子・肥料配布プロジェクト、母子栄養プログラムなどの援助増額に努めた。また、ハイチの児童3万人を対象とした学校給食プロジェクト、シエラレオネの道路・排水工事のための現金報酬プログラム、ルワンダの農家の肥料購入用グラントなどのプロジェクトに12億ドル近い拠出を誓約している。保健、教育、栄養分野のこうした投資は、一時的な貧困救済にとどまらない。人的資源への投資なのだ。脆弱国向け基金は、貧困層のためのこうしたショック緩衝策の拡大に役立つはずだ。 第二に、インフラ投資は莫大な恩恵をもたらし得る。中国の例がそれを示している。中国では、質の高いインフラ・プロジェクトは、雇用を創出する一方で生産性と成長の基盤を構築し得ることが過去10年で示されている。世銀はそうしたプロジェクトへの支援を今後3年間で年間150億ドルに増額する予定である。これには、低炭素テクノロジー・プロジェクトと、雇用創出と同時に基本的サービスの提供を改善する官民パートナーシップへの支援が含まれている。 第三に、脆弱国向け基金は中小企業やマイクロファイナンスを提供する団体の支援に役立つだろう。小規模事業は最も活力があり柔軟な雇用主である。一方、雇用は最高のセーフティネットになる。小規模事業は、ウォール街や実体経済にさえ含まれない、道路もないような村落で展開されている。しかし、小規模事業やその貸し手は、信用収縮の結果、国営企業や大企業のような公的資本による救済を受けることもできずに退場を余儀なくされている。世銀は今回の世界的危機への対応として途上国の小規模な銀行の資本強化計画を既に立ちあげ、最貧困層対象のマイクロファイナンス団体に与信枠を提供している。脆弱国向け基金により、こうしたイニシアティブの続行が可能になるだろう。 本来、議会は対外援助の問題に煩わされるべきでないとされている。だが実際には、教会や学校、コミュニティ・グループに促され、民主党も共和党も栄養問題改善や、飢餓やエイズ、マラリア、結核撲滅のための良質なプログラムには多大な支援を提供してきた。議会はまた、世界中でマイクロファイナンスや小規模事業の発展も支援してきた。米国にとっては他にも支援の動機がある。海外でプロジェクトが実施されれば、米国製の機材に対する需要が拡大する可能性も高い。 米国発の危機の代償をアフリカで貧困に苦しむ人々に負わせてはならない。先進国からの援助総額は年間約1,000億ドル と、途上国のニーズに照らせばごく小さな額にとどまっている。国連の援助目標はGDP比0.7%である。米国の拠出は約0.2%だが、アンケート調査では米国民には一貫して援助増額の意思があるとの結果が示されている。 脆弱国向け基金を支援することにより、国際的な景気後退の深刻さと長期化を抑え、社会不安の広がりを阻み、ひとつの世代が新たな貧困状態に陥るのを防ぐことができる。米国の景気刺激策の1%にも満たない金額を差し出すことで、オバマ大統領はロンドンで開かれるG20金融サミットを主導し、新たな米国を世界に示すことができる。 ロバート・B・ゼーリックは世界銀行総裁。 |