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危機の後に来るべき世界?

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ロバート・B・ゼーリック
世界銀行グループ総裁

ジョンズ・ホプキンス大学
ポール・ニッツ高等国際問題研究大学院(SAIS)

2009年9月28日

大きな変動は、政治、経済、安全保障の秩序に生じていたひび割れを拡大する衝撃波を生みます。時には旧来の秩序が崩壊することもあります。それでも、指導者や人々が変化の方向性を形成する力を示すことは可能です。

今日、大多数の人々は、「フランス革命の省察」を著したエドマンド・バークは、国王と王妃を処刑し、恐怖政治を招いたフランス革命を事後的に批判したと考えています。しかし、彼は、まだ死刑囚を乗せた車がギロチン台へ向かうガラガラといった音や、処刑台の周囲の群集の叫び声がパリの街に響き渡る前の1790年に、この本を書き上げていたのです。

1789年は、歴史的にも稀に見る大きな変動の年でした。バークの賢明なる警鐘にもかかわらず、当時の人々の多くは、フランスが立憲民主主義を目指す「英国の道」を歩むものと考えていました。こうした画期的な出来事は時代とともに波及的な影響を及ぼす可能性があります。中国の周恩来首相(当時)は、フランス革命から1世紀以上後に、その影響について尋ねられ、「判断するには尚早だ」と答えたとされています。

今年は、1989年の平和革命から20年目になります。当時ヨーロッパ全土に広がっていた大変動は、1789年の革命とは大きく異なり、冷戦を終結させ、ベルリンの壁崩壊、中・東欧の自由化、ドイツ統一と欧州統合、ソ連解体、ロシア復活を導きました。多くの人にとって、こうした動乱の日々は、私の友人でもあるフランク・フクヤマ教授の言葉を借りると、まさに「歴史の終焉」のようでした。それでいて欧州は、その後欧州連合(EU)となった共同体の発展、共通通貨の創出、NATOの拡大といった新しい局面へと移行したのです。

この時代、ほとんどの人々はヨーロッパに注目していましたが、世界中で新たな歴史の動きが見られました。NAFTAは、メキシコの抜本的方向転換を促し、民主化や北米の一員としての統合への可能性を導きました。APECは、台頭する東アジアを太平洋沿岸のアメリカと結ぶ「開放的地域主義」の意味を持ちました。さらに国連決議に基づく国際社会の連帯は、イラクの非道なクウェート侵攻を撤収させ、イスラエルとアラブ諸国間のマドリッド和平会議を導きました。こうした変化の種は、激動の中で機会を見出した先見的指導者たちによって蒔かれたのです。

当時からこれまでの経験を通じ、私は、世の中で起きる出来事には連続性があるという認識を強めてきました。バークが著わした通り、「パートナーシップは現世代同士の間だけでなく、過去の世代や、将来の世代との間にも」存在するのです。

結果は予め決められていた訳ではありません。結果は、出来事と、目的をもった数々の行動によって左右されるのです。

2009年、我々は、世界を変えつつある新たな変動の中にいます。それは未来にどのような影響を及ぼすでしょうか。

今日の変動は無から生じた訳ではありません。その種は以前に蒔かれていたのです。

過去20年間に世界の経済構造は大きく転換しました。ソ連や中・東欧の計画経済の崩壊、中国とインドの経済改革、東アジアの輸出主導型の成長戦略により、世界の市場経済の人口は10億人から40~50億人へと飛躍的に増大しました。こうした変化は極めて大きな機会をもたらしていますが、その一方で、20世紀半ばに確立され、その後の数十年間に継ぎはぎを重ねてきた国際経済システムを揺さぶってもいます。

今日の問題の一部は、1990年代後半の金融危機への対応、または対応の欠如に始まっています。アジア金融危機後、途上国は、グローバリゼーションの嵐に二度とさらされまいと決意しました。多くの途上国は、為替レートの管理や外貨準備の大幅積み増しなどにより自国経済の防衛に努めました。こうした変化の一部は世界経済における不均衡と緊張を招きましたが、概ね堅実な成長に助けられ、各国政府はなんとか切り抜けてきたのです。

中央銀行は、新しい経済の中で積み上がったリスク対策を怠りました。中央銀行は1980年代にモノの価格としてのインフレ対策をマスターしたかに見えますが、多くの場合、資産価格バブルの認定は困難で、金融政策の発動には慎重であるべきと考えていました。また、バブルがはじけても、雇用、生産、貯蓄、消費など、「実体経済」へのダメージは、大幅な利下げによって対応可能だと主張しました。しかし、このような考えは間違っていました。

金融機関の規制・監督当局は、もはや実体から乖離していたのです。金融イノベーションと競争によりサービスは大きく拡散し、それまであまり相手にされなかった企業や家庭向けのものも生まれました。しかし、規制当局は、単純な「合理的市場」理論に魅了され、市場と人間の複雑性、心理、組織行動、システミック・リスクという現実を忘れてしまいました。

過去にもそうであったように、今日の我々の行動が将来の機会と課題を形造ります。

我々は過去の経験から、教訓を学ぶ必要があります。ただし、過去からの制約を受けることなくです。我々は往々にして、将来の危機に備えるのではなく、過ぎ去った危機と闘いがちです。ひとつ確かなことは、皆様が生きている間に必ずまた別の大変動が発生し、しかもそれは現在我々が直面しているものとは別のものだという点です。

今日、ここSAISにお集まりの皆様は、将来の形成に寄与できる幸運に恵まれており、実際に貢献されることを期待します。皆様は、過去の取り組みを研究して行く中で、「今回の危機で世界はどう変わるのか」との疑問を持たれるかもしれません。

1944年、ニューハンプシャー州ブレトンウッズに集まった各国代表は、新たな世界的取極めを形成するチャンスを捉えました。彼らは、3週間にわたり、世界の主要経済国間の金融・商業上の原則、組織、手続きの体系を確立しようとしたのです。

その後の65年間で世界は大きく変わりました。特に1989年の構造変化の影響も含めてです。そして現在の変動は、まさに世界の地殻変動です。

すでに、勢力関係、組織、国際協調の面で変化の兆候が見られます。こうした変化は、ひとつには新たな環境に当事者たちがいかに適応するか、またひとつには回復の速さに、さらに世界の資本、技術、人材が誰の手に委ねられ、どう利用されるかに、そしてまた、各国がいかに協調するか、あるいはしないか、によって左右されることになるでしょう。

危機後の勢力関係に対する認識と現実

現在の想定は、危機後の政治経済には、中国と、恐らくインドその他の主要新興国の影響力増大が反映されるというものです。危機の震源となった米国の経済力と影響力は恐らく低下します。

こうした見方にはそれなりの理由があります。中国は、景気刺激策と金融政策の両方を講じることで危機に力強く対処しており、これらの当面の対策を賄う十分な資金力をもっていると見られます。中国の素早い回復は他の国々に恩恵を与え、その影響力増大を改めて示しました。

確かに、今や中国は世界経済安定化の大きな力となっています。中国とインドを合わせると世界生産の8.5%を占めています。両国をはじめ途上国は先進国よりはるかに急速な成長を続けています。

とはいえ中国の将来が盤石なわけではありません。2009年の中国の急速な回復は、1-8月の期間でGDPの26%という与信拡大が追い風になったものです。この拡張傾向は現在、落ち着きを見せていますが、当局は、資産価格や資産の質、ひいては全般的なインフレに影響を与える恐れから、さらに抑制するものと思われます。それでも2010年は中国にとって極めて不確実な年となるでしょう。

中国の指導者は、自国や他の新興国が依然として輸出主導型成長に依存しているリスクを認識しています。中国にとって内需依存型成長への構造転換、とりわけ同国の目標である、より「調和のとれた社会」に貢献しつつ、世界成長の均衡回復の助けとなる消費拡大への構造転換は容易ではないでしょう。中国では金融サービスなどサービス部門が規制によって保護されているため、起業家のビジネスチャンスと生産性向上が制約を受けています。

米国も、今回の危機により大きな打撃を受けました。しかし、米国には、逆境を跳ね返し、新しい環境に順応し自己改革を行う風土があります。

米国の将来は、巨額赤字への対策、国の信用と通貨価値を損なうインフレを伴わない回復、そして安全性と健全性を高めつつイノベーションを維持するための金融システムの抜本改革にかかっています。米国はまた、開かれた貿易、投資、人材やアイデアという最大の切り札を維持できるよう、国民が変化に適応するための支援を行う必要があります。地政学者は、米国が自国の利益を国際協調に投影できるよう、米国の経済問題が米国の信認、エネルギー、資源の劣化を招く兆しに警戒を続けています。

日本は、金融危機に引き続き政治の大変動を経験した最初の主要先進国でした。先の選挙で民主党が選ばれたことにより、日本の歴史上初めて、持続的な二大政党を基礎とした民主主義が確立されるでしょう。

日本は、輸出主導型成長のモデルともいうべき「貿易国家」として第二次大戦後の灰燼から立ち上がりました。この旧来の輸出モデルの成長が、米国の経済に大きく依存しない、より「均衡のとれた」世界経済の中で持続可能かどうかは不透明です。高齢化が進む日本では、これまでとは異なる消費ニーズが出てくるでしょう。成長構造の多極化した世界経済は、とりわけ抜群の省エネ能力を誇る日本にとって新たな市場をもたらすかもしれません。

世界は、日本において、党派を超えて維持でき、新たな国際的責任を担おうとする外交政策が形成されることに対して、深い関心を寄せるでしょう。新たな外交政策は、日本のこれまでの開発経験に基づいて築かれることでしょう。日本は、特に日米関係を通じて世界的役割を維持しながら、ASEAN、オーストラリア、中国、韓国などのアジア・太平洋諸国との協調を深めることができます。また日本は、アフリカ、ラテンアメリカ、中央アジア、中東における開発機会を捉えることにより、「情けは人のためならず」を実践することができます。

EUは、今回の経済危機が、1989年の革命で実現した「新しいヨーロッパ」の最初の正念場であることに、すぐには気づかなかったかもしれません。しかし、結果としてはEUは比較的迅速に対応し、欧州の各機関はより強化されることになるでしょう。

今回の危機に特に大きな打撃を受けた中・東欧諸国にとって、まだ問題は全く終わっていません。但し、少なくともEU加盟国にとって、欧州委員会(EC)、欧州復興開発銀行(EBRD)、欧州投資銀行(EIB)による支援が、世銀グループによる援助と共に、大変重要な役割を果たしました。中・東欧の隣国に投融資を行った欧州の銀行は、現地での活動を続けています。域内の論争や交渉は多々あるものの、欧州各国同士が、相互依存を認識しているのは喜ばしい戦略的ニュースです。今回、欧州はプレッシャーを受けても分裂しなかったのです。

欧州中央銀行(ECB)は、ジャン=クロード・トリシェ総裁の優れたリーダーシップの下で重要な役割を果たしました。ECBは、ユーロの信認を守りながら、欧州の金融システムの支援やユーロ圏外の欧州諸国への支援を行うという綱渡りをやってのけたのです。その結果、ユーロ圏外の新加盟国もおそらくECBの下で安全を求めようとするでしょう。

それでも、EUは厳しい経済状況の中、不安定に直面するはずです。エネルギー面での脆弱性が不安をあおり、特にウクライナやロシアなど東側隣国との関係を悪化させています。バルカン情勢はなおもくすぶっており、ボスニアへの不作為は、EUが自らの域内の安全を確保する能力について不安が再燃するでしょう。EUとトルコは共通の将来について一致した見解を構築するに至っていません。欧州では、人口の高齢化が進むにつれ、移民の社会的な統合が問題になるでしょう。

東南アジアもまた、機会をどう捉えるかにもよりますが、今回の危機によって評価を高めたと言えるでしょう。この地域は、二大新興国であるインドと中国の間に位置しています。ASEANはこのチャンスを知っていたように、他地域への展開を進める一方で、域内の統合を進めてきていました。

インドネシアの大きな存在感とベトナムの影響力増大を踏まえれば、経済混迷の中でのASEANの堅調なパフォーマンスは10年前と比べ際立っています。しかし、タイやマレーシアといった国々には経済の調整や政治の安定化の問題が残っています。また、新興ASEAN諸国が国際社会に認識されるかどうかも課題です。中国とインドは認識しているようですが、北米やEUはどうでしょうか。

それ以外の国々に対する今回の危機の長期的影響は、特に原油価格など、近年、大きな収入をもたらした一次産品次第となる可能性があります。原油価格がバレル当り100ドルであれば、これらの国々は堅調です。ところが、30ドルでは、ほとんどの国が深刻な状況に陥ります。このような石油と一次産品に依存した経済は、世界が化石燃料依存からの脱却に向けて努力している状況で、投資家が様々な「資産クラス」に資金を出し入れして一次産品価格が乱高下する中で、砂上の楼閣のようなものです。これらの国々は、多様で幅広い基盤をもった経済発展を進めるべく、こうした収入を賢明に利用するでしょうか。これは、ロシア、湾岸諸国、そしてラテンアメリカとアフリカの一部諸国にとっての課題です。

ブレトンウッズに集った各国代表が十分理解していた通り、勢力図の変化を正しく理解することが、将来を形成するための基礎となります。ブレトンウッズ・システムの政治的基盤は、第一次大戦後の無責任という共通の体験と、第二次大戦後のパワーバランスの明確な評価により築かれたものです。この勢力関係とそれを結ぶ市場の性格が変化すると、システムそのものが時代遅れに見えてきます。いくつかの例を上げてみましょう。

ドルは世界の主たる準備通貨としての地位を維持するか

ブレトンウッズで確立された通貨制度は、1973年に、ドルを世界の主たる準備通貨として変動相場制に移行しました。準備通貨としてのドルの信頼性はさておき、今回の危機の間、ドルは投資家のセーフ・ヘイブンとして価値を高めました。

ドルがこれまで特恵的地位を享受してきたことは、米国にとって大変幸運なことです。財政や貿易赤字のファイナンスに苦しむ国々と仕事をしながら私は、国債や通貨の発行を自由に行えるという米国独自の有利な立場を米国民がほとんど意識していないことを思いだします。ナポレオン戦争は偉大な作戦や戦いの歴史を伝えてくれますが、英国と同盟国の最終的な勝利は、英国の財政再建を進めたピット首相の実務的な業績に負うところが大きかったのです。

しかし、米国が、ドルが今後も世界の主たる準備通貨としての地位を当然維持すると思っていれば、それは間違いです。今後は、ドルに代わる選択肢が一段と増えるでしょう。

ECBの最近の実績から見て、ユーロの準備通貨としての資格が高まると考えるべきです。ユーロの影響力は、EU加盟国の今後の競争力及びEU金融市場の厚みと流動性によっても左右されるでしょう。人口動態や成長の見通しも重要です。実際、ドルが弱まれば、ユーロ建て金融は立派な代替手段となります。

さらに中国は、「元」の国際化に向け着々と動いています。中国は、通貨スワップなどを通じて、貿易相手国が元建て取引を行い易いようにしています。こうした変化は投資の世界でも進む可能性があります。例えば、中国は今月初めて、オフショア投資家向けに元建てソブリン債を発行しました。また最近、外国企業に対し国内証券取引所への上場を許可すると発表しましたが、これは上海を国際金融センターに育てるための一歩です。一次産品の大輸入国として、上海や中国の他の港で一次産品の元建てベンチマーク指数がそのうちできるということは十分考えられます。

中国の指導者は慎重です。指導部の大半は、閉鎖的な資本取引の規制を維持していく意向です。金融市場と銀行市場は様々な介入・規制を受け続けるでしょう。それでも私は、中国が否応なく外に向けて動いていくだろうと考えます。今後10~20年で、元は金融市場におけるひとつの勢力へと発展して行くでしょう。

主要通貨バスケットである特別引出権(SDR)建ての金融手段の実験を行う国や市場も現れる可能性があります。

無論、米ドルは主要通貨の一つであり、今後もそうであり続けるでしょう。しかし、ドルの命運は、米国の選択に大きく依存します。米国はインフレに頼ることなく財政赤字を解決できるでしょうか。米国は歳出並びに財政赤字に関する長期的な規律を確立できるでしょうか。さらに、大規模バブルや制度崩壊の危険を再発させることなく、イノベーション、流動性、利益を確保できる健全な金融セクター機能を回復できるでしょうか。ドルの価値はまた、米国がダイナミックで革新的な民間経済をどの程度取り戻せるかにもかかっています。

勢力関係は各国の国内でも問われています。中央銀行は今回の危機で実に大きな役割を果たしました。

民主的な政府が、独立した中央銀行がさらなる権限を手にすることを容認するでしょうか。 

米議会は、資金の創出、資産の調達、国際的な通貨スワップ・ラインの設定、通常の公的支出の枠外の取引など、連邦準備銀行に与えられた権限に驚かされました。

米議会は、アレクサンダー・ハミルトン以来、銀行や銀行家とぎこちない関係を続けてきました。米国で中央銀行が設立されたのは実に1913年のことです。連邦準備銀行は長年の努力の末にようやく独立を勝ち取りました。

ですから、米国民主主義が、金融政策の実行とともに銀行のシステミック・リスクの監督という新たな権限をFRBに認めることを躊躇するのは驚くことではありません。

英国では、イングランド銀行と金融サービス庁の役割について論議が起こっています。ユーロ圏の国々も同じ問題に直面していますが、国内の様々な監督機関の存在が問題を一層複雑にしています。またこれは、銀行市場や金融市場が発展しつつある新興途上国の問題でもあります。

中央銀行は、危機が本格化した後では立派な仕事をしました。しかし、資産価格インフレや銀行監督の大失敗など、危機に至る過程で適切に対処したかについては疑問です。中央銀行がインフレを暴走させることなく回復を達成できるかはまだ不明です。

イスラエル中央銀行の総裁で元IMF副専務理事のスタンレー・フィッシャーは、組織の有効性の議論に基づき、中央銀行に金融政策手段と健全性基準の監督手段の両方を持たせることが望ましいと主張しています。これに対し、一方の機能がどうしても疎かになる、または、両方の機能を単独の機関に集中させると、セカンド・オピニオンを求めることなく、誤りを犯す危険が増大するとの主張もあります。利益相反だとする意見すらあります。

この論争には、銀行や中央銀行に対する政治的伝統や姿勢の違いが反映されています。米国では、独立した強い権力を持つ連邦準備銀行の官僚にさらなる権限を付与するのは難しいかもしれません。近年の危機管理に対する私の見方は、様々な規制当局を統率する広範な権限を財務省に与えるべきだったというものです。さらに、財務省は行政機関なので、追加された権限の行使に関し、議会や国民がより直接的に監視することができます。

ブレトンウッズ体制のもう一つの遺産は、世界貿易システムですが、このシステムは世界経済のニーズに応えているでしょうか。

その答えは間違いなく「ノー」です。

プラス面を見るならば、1930年代の経済孤立主義の経験があまりに破滅的であったため、ほとんどの国は二度と同じ轍を踏むまいと留意しています。従来の保護貿易主義は今のところ微熱レベルに過ぎません。しかし、熱は上昇しています。

貿易に関する政治経済の象徴は「自転車理論」です。多くの国の生産者が保護主義という引力を持っているため、貿易が走り続けるためには、常に自由化という推進力が必要になるのです。市場開放の潜在的利益によって、貿易障壁を求める声に対抗する利害関係者を動員できるのです。

現在、自転車のペダルは、WTOのドーハラウンドをほとんど前進させていません。しかも、ドーハラウンドの交渉枠組は10年近く前のものなので、新たな課題とのズレが広がってきています。我々はすみやかにドーハラウンドを完了し、その上で将来に目を向けるべきです。

ドーハラウンドは、長年にわたり貿易ルールの枠外にいた農業補助金の削減、抑制、さらには一部撤廃を進めることが可能です。また、先進国や主要途上国における工業製品や農産物市場をある程度開くことができます。相互に貢献する意識を高め、関税の大幅引き上げのリスクを回避しながら、主要途上国の貿易障壁を「拘束力」をもって一段と低くすることもできます。ドーハラウンドはまた、サービス市場を開くことができる上、貧困国の素材や高付加価値の製品を閉め出す先進国の高率関税を低減することが可能ですし、さらに貿易を安易に抑えるために曲げられてきた規則の修正も可能なのです。このように、ラウンド合意の実益は大きいだけでなく、先進国と新興経済大国が相互の利益、そして世界全体の利益のために歩み寄ることができることを証明できるでしょう。

ドーハラウンド完了後は、新たなアジェンダに向けて迅速に動く必要があります。地域統合はグローバリゼーションの一環ですが、開かれた地域主義を奨励しつつ、より深くより包括的な自由化の恩恵を各国が得られるようなルールが必要です。WTOは、新たな炭素税といった手段に頼ることなく気候変動アジェンダを支援しなければなりません。我々は、今回の危機に起因した金融や補助金という形での保護主義に対抗する必要があります。南南貿易の垣根を低めることも必要です。発展と成長の機会に見合うようサービス貿易を拡大していかなければなりません。貿易による成長の機会をうまく活かせない最貧国に対する一層の支援も必要です。

新アジェンダの策定は、世銀グループも支援する、貿易振興策と「貿易のための援助」とを結びつけるパスカル・ラミーWTO事務局長の成果を踏まえる必要があります。貧困国が貿易障壁引き下げの成果をフルに得るには、市場規模を拡大するとともに内陸国の市場アクセスに有効な地域統合、エネルギー、インフラ、物流システム、貿易金融への速やかなアクセス、基準認証の支援、そして通関・国境手続きの簡素合理化が必要です。ケニアとウガンダの国境をトラックが通過するのに、かつては2日かかりましたが、今では、世銀の支援で設置されたワン・ストップ・ポストにより、国境通過手続きを2時間以内で済むようになりました。

ブレトンウッズ体制は、権力が限られた国家に集中していた時期に44か国によって確立されました。植民地の独立の大波はやっと揺れ始めたばかりであり、限られた途上国は歴史の主体としてではなく客体として見られていた時代でした。しかし、そうした世界はとうに過ぎ去りました。政治経済を取り巻く新たな現実では異なる体制が必要です。

危機後の世界で途上国が担う役割とは、何なのでしょうか。

今回の危機は、中国やインドをはじめとする新興経済大国の重要性の増大を浮き彫りにしました。実際、世界経済の勢力関係では、約200年前の産業革命以前の相対的シェアに北米を加えた状態へと「均衡の再調整」がなされつつあります。

新興途上国は世界全体の回復過程に重要な役割を果たすべきです。大方の予測では、米国消費の後退により、世界の需要の伸びは緩慢です。一方、多くの途上国は、金融アクセスさえあれば需要拡大が可能ですが、国債発行余力があっても、民間セクターのクラウド・アウトを起こさずに妥当な金利で借りようとしても必要な資金が集まりません。しかも、中所得国には世界の最貧困層の70%が暮らしています。世銀グループと地域開発金融機関は、こうした国々を支援できます。

今後は、世界全体として、よりバランスがとれ、貧困層に配慮した成長モデルを通じ、多極型の成長の恩恵を受けることができます。さらに、インフラ、人材、民間企業に投資することによって、ラテンアメリカ、アジア、そして広義の中東の国々も世界経済の『新秩序』に貢献できる可能性があります。

アフリカもまた、長期的には成長の極となる可能性があります。ほとんどのアフリカ諸国から、同じメッセージが聞こえます。彼らが求めているのは、エネルギー、インフラ、より生産性の高い農業、ダイナミックな民間セクター、そして開かれた貿易をもたらす地域統合された市場です。これは、60年前に荒廃したヨーロッパで聞こえたメッセージと変わりありません。

危機以前には、多数のアフリカ諸国が目覚ましい高成長を持続的に記録しました。危機を乗り越える過程で、新たな機会が生じましょう。中国のいくつかの製造会社は政府の支援の下、生産拠点のアフリカ移転を検討中です。世銀グループは中国政府と協力して、このような事業のインフラ、エネルギー、研修ニーズを満たす新しい工業団地の造成を検討しています。

資源開発とインフラなど、アフリカへの展望を持っているのは中国だけではありません。ブラジルは自国の農業開発の経験をアフリカに提供したいと考えています。インドは鉄道を建設中です。こうした傾向はまだ始まったばかりであり、今後さらに発展するでしょう。

世銀グループがこうした展開を支援することによって、世界規模で金融・貿易の保護主義に対抗することができます。世銀グループで民間セクター支援を担うIFCは、銀行、株式、インフラ、債務再編へ投融資を行うための新たなアセット・マネージメント会社を設立しました。これと並行して、現地通貨建て債券市場の育成のための投資も進めています。政府系ファンドや年金基金など、超長期の投資家は、先進国の市場にもリスクある一方で、途上国市場に有望な成長見通しがあることに気づいています。

終わりに

今回の危機を乗り越える過程で我々は、政策、構造、組織を見直す機会を得ます。「責任あるグローバリゼーション」という21世紀型の新たな世界的システムを構築する機会なのです。それは、バランスのとれた世界成長と金融安定化を奨励し、気候変動に対する世界的取り組みを進め、最貧困層のために機会を増進するものです。それは、開かれた市場と貿易、投資、競争、イノベーション、起業家精神、成長、情報、そして様々なアイデアの競争などの果実が豊富になることを意味します。それは、貧困層に配慮した持続可能なグローバリゼーションであると共に、環境に配慮した機会の拡大でなければなりません。

とはいえ、それは自動的に起きるものではありません。

4月にロンドンで開かれたG20サミットでは、各国首脳は経済危機の深淵をのぞき込みました。今日の危険は、経済の急降下ではなく、思い込みです。危機が下火になるにつれ、「前よりも良いものをつくる」ために各国の協力を得ることが難しくなります。先週のG20サミットで合意された『強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み』について国同士が相互にピア・レビューを行うことは良い出発点ですが、国際的なモニタリングの結果を真剣に受け止めるなど、国際協調と政策調整を一段と強化する必要があります。相互評価には相互によるプレッシャーが必要です。

気候変動が当面のテストケースとなります。12月に開かれるコペンハーゲン気候変動会議では、途上国が低炭素型成長に参加するインセンティブを構築する必要があります。政策決定者は、技術革新、適応、成長を奨励しつつ、温室効果ガスの継続的削減プロセスの骨組みをつくる必要があります。

新たな多極型の成長を反映させた国際的な政治経済システムが必要です。新興経済大国に対しては、なおも何億人もの貧しい人々が暮らして、驚くほどの開発問題を抱えている点を認識しつつ、世界の「責任あるステークホルダー」として参加を促す必要があります。他方で、先進国のエネルギーや支援を取り込むことが必要です。財政赤字の重圧や、競争力への不安を感じている先進国の国民は、台頭する新勢力も責任の一端を担うべきだと感じています。最貧国や最脆弱国、電気のない生活をしている16億もの人々、紛争やガバナンスの欠如ゆえに貧困から脱け出せずにいる「底辺の10億人」に対して、支援の手を差し伸べなくてはなりません。

グローバルな金融と通貨。貿易システム。貧困層に配慮した持続可能な開発。気候変動。脆弱性や紛争に苦しむ国々。その他、安全保障面の数多くの問題。どの課題もそれ自体重要ですが、各々が互いに結びついているのです。

世界各国は、互いに協調しない限り、この課題に効果的に対処することはできません。旧来の国際的経済協調メカニズムは今日の現実に合っていません。我々は、新たな国際協調と市場の革新を図らなければなりません。

先週、ピッツバーグで合意したように、G20は、先進国と新興国間の国際経済協力の主たるフォーラムとなるべきです。しかしそれは、他の関係者から独立した委員会であってはなりません。G20に含まれない160か国以上の他の国々の声を無視することはできません。

G20は、国家と国際機関のネットワーク全体にわたる「運営幹事」として機能すべきです。この運営幹事は、問題の連関性を認識し、相互利益を促進することが可能です。このシステムは階層的であったり官僚的であったりしてはなりません。さらに、他の交渉グループや国際的組織、あるいは国際機関や地域機関を通して取り組むのもよいでしょう。IMF、世銀グループ、WTO、金融安定理事会(FSB)、国連機関は、問題について各国に警鐘を発したり、分析、協力的なソリューションの構築、政策実施の支援を行うことができます。

国際機関も、有効性を高め、正統性を担保するために進化していかなければなりません。投票権シェアは、貧困者のボイスを守る一方で、新興大国の重要性と新たな責任を反映させたものとすべきです。国際機関にはまた、民間企業、財団、シビルソサイエティとのネットワークと連携する際、また国際機関同士の連携の中で、透明性や機敏さが求められています。

今回の危機の発生前からすでに、旧来の国際経済秩序は、現実の変化に追いつくために苦闘していました。今日の大変動は、旧秩序と現実との乖離及び差し迫ったニーズを顕在化しました。変化に追いつき、将来に向けて前進するのは今なのです。

問題は各国の指導者が、変化の操縦のために協力できるかどうかです。彼らは当然、国民の代表者として、自国の利害に縛られるでしょう。その一方で、共通の利益を、単にケースバイケースではなく、「責任あるグローバリゼーション」を反映した機関を通して、認識し構築することも迫られるでしょう。

ブレトンウッズ体制が今、目の前で抜本的に見直されています。今回は、ニューハンプシャー州で費やされた3週間よりも長い時間がかかるでしょう。当時よりも多くの参加者がいるでしょう。しかし、それは当然です。次回の大変動がどのようなものであれ、それはすでに形成されつつあります。問題は、我々の手で次の世界をつくるのか、次の世界に飲み込まれてしまうのかの選択なのです。


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