世界銀行グループ年次総務会 ロバート・B・ゼーリック 世界銀行グループ総裁 スピーチ トルコ・イスタンブール 2009年10月6日 「危機後における世界銀行グループの役割」 議長、総務の皆様、並びにご来賓の皆様 本年度の年次総会にご出席いただき、ありがとうございます。特に、グエン・ヴァン・ザウ総務会議長、並びに開発委員会の議長としてリーダーシップを発揮していただいたアグスティン・カルステンス氏に感謝の意を表します。過去2年間、カルステンス議長と私は従来以上に緊密に協力してまいりました。議長に対しては、有能な閣僚であり思慮深いリーダーとして深い尊敬の念を抱くと共に、そのご協力と友情の恩恵に預かってまいりました。今回の開発委員会は、カルステンス氏の議長として最後の会合となりますが、今後とも私は、氏の御助言と御指導を仰ぐことができればと思っております。 バーレーン王国のアル・ハリーファ大臣が寛大にも開発委員会議長の職務を引き継いでくださいました。今後、よろしくお願いいたします。アル・ハリーファ大臣と私はこれまでも一緒に仕事をさせていただきましたが、この重要な時期に共に働けることを誠に嬉しく思っております。 また、良き同僚であるドミニク・ストロスカーン専務理事にも感謝を申し上げます。 IMFと世銀はこの1年、緊密に協調してまいりました。ストロスカーン専務理事の洞察力、実際的な取り組み、そして上質のユーモアに敬意を表します。 さらに、本年の総会開催のために、惜しみない支援をご提供くださったトルコ政府及び国民の皆様にも感謝の意を表します。偉大な歴史を持つトルコにおけるこの魅力的な都市を訪れることができ大変満喫させていただいております。そして何よりも、イスタンブール市民の皆様、そしてトルコ国民の皆様に御礼を申し上げます。 この機会をお借りして、故ロバート・マクナマラ元世界銀行総裁について一言申し上げます。マクナマラ氏は、実に13年の長きにわたって世銀を統括し、その礎を築かれました。氏は、世銀に開発問題は解決可能であるという確たる信念と、膨大なエネルギーを注ぎ込みました。氏のすばらしい功績の一旦を紹介いたしますと、河川盲目症の撲滅と予防の取り組み、世銀初の栄養分野向け融資、農村貧困層対策の強化と農業融資の増大、「世界開発報告」の創刊、その後の成長にとって重要な時期を迎えていた中国と世銀との関係樹立など、氏の優れた先見性とリーダーシップを反映するものばかりです。 ロバート・マクナマラ氏は、世界銀行グループの焦点を世界の貧困削減へと向けました。この目標は今でも私どもの中心的使命であり、国際開発そして世界銀行グループにおけるマクナマラ氏の遺産として確実に引き継がれていきます。 晩年のマクナマラ氏と言葉を交わした際、氏は、世銀グループの職員について、まさに文化と国境を越えた実に有能な人材の集団であると、懐かしく振り返っておられました。その後の総裁も皆、職員に高い評価をしており、私も同様の敬意を表したいと思います。世銀グループの職員は、この1年間、精力的、創造的に、そして途上国とそこに暮らす人々のために働くという強い目的意識をもって、危機に立ち向かってきました。 また、このたびコンゴ民主共和国のフタ大臣が御逝去されたという報を受けました。総務会議長共々、氏のご家族と同国政府に対し深い弔意を表します。 さらに、急逝された日本の中川昭一元財務大臣のご家族に対しても哀悼の意を表したいと思います。 ***** ***** ***** 昨年の総会は、まさに大きな混乱の真っただ中でありました。この混乱は今日でもとても治まったとは言えない状態です。 この世界的危機の結果、来年末までに新たに9000万人が最貧困状態に陥り、今年、最大5900万人が失業し、サブサハラ・アフリカではさらに3万から5万人の乳児が死亡すると推定されます。 こうした数字の裏側には、実際の人々がいるのです。 -- オイ・ピューオンはカンボジアの衣料工場で働く労働者です。金融危機が始まって以来、彼女の月収は半減されました。彼女の収入が頼りの家族に対し、彼女はもはや仕送りの余力がありません。カンボジアでは昨年、48の衣料工場が閉鎖に追い込まれ、6万2000人が職を失いました。その90%は女性です。現在、オイ・ピューオンは自分も失業するのではないかと不安を抱いています。 -- ザーグドは、モンゴルの遊牧民です。この国では、危機の影響で家畜の価格が暴落しました。その一方、食糧価格は日を追って上がっており、ザーグドはもはや小麦粉、コメ、砂糖を買うことができません。彼のような遊牧民には年金も社会保障もありません。ですから収入が減れば、消費を減らす以外に道はないのです。ある放牧民はこう言います。「砂糖は高いから買わないし、野菜も食べない。外出しないから服も多くは必要ない。冬になっても薪や石炭は買わない」と。 -- 28才のリンディウエはアフリカ南部の貧しい村で暮らしています。彼女はHIVに感染しており結核もわずらっています。NGO(非政府組織)が運営する診療所を訪ねましたが、治療を断られました。金融危機の結果、診療所を支える資金が枯渇し、薬品もなくなったのです。新たな資金確保の目処は立っていません。世銀と国連合同エイズ計画(UNAIDS)による最近の調査では、途上国の2割で、抗レトロウイルス療法プログラムの資金が削減され、33か国で来年もさらに状況が悪化すると予想されています。リンディウエに残された時間はもう長くはありません。「幼い娘を残して死ぬことには耐えられません」と彼女は言います。 失業者が増え、人々の生活を破綻しています。女子が学校に行けなくなっています。家庭では食事に事欠く状態です。子供たちは栄養失調に苦しんでいます。人々の生活のこれまでの改善が帳消しになっています。ともすれば取り返しがつかないまでに。 我々が危機から回復したと言っている間にも、実際には、貧困で苦しむ人々であふれています。 町でも村でも谷でも平野でも、道路があろうとなかろうと、人々の思いは同じです。「こんな状態を二度と招いてはならない。」 残念なことに、その約束はできません。危機のない世界を作ることはできません。実際、将来について確かなことがあるとすれば、混乱は必ずまた起こるということです。しかし、リーダーシップと協調をもってすれば、我々は、過去の危機から教訓を得、将来を見つめることができます。 当面の緊急対応にとどまらず、「より良いものを築き直す」ための行動、つまり今後とも通用するものをつくる必要があります。その任務は、今日ここに集まった我々に託されています。危機に当たっての協調はまだ容易です。もはや危機の深みから抜け出しつつある中で協力を続けることこそが問題なのです。 危機の種 将来を展望する前に、まず過去を理解する必要があります。今日の変動は無から生じた訳ではありません。その種は以前に蒔かれていたのです。 過去20年間に世界の経済構造は大きく転換しました。ソ連や中・東欧の計画経済の崩壊、中国とインドの経済改革、東アジアの輸出主導型の成長戦略により、世界の市場経済の人口は10億人から40~50億人へと飛躍的に増大しました。こうした変化は極めて大きな機会をもたらしていますが、その一方で、20世紀半ばに確立され、その後の数十年間に継ぎはぎを重ねてきた国際経済システムを揺さぶってもいます。 今日の問題の一部は、1990年代後半の金融危機への対応、または対応の欠如に始まっています。アジア金融危機後、途上国は、グローバリゼーションの嵐に二度とさらされまいと決意しました。多くの途上国は、為替レートの管理や外貨準備の大幅積み増しなどにより自国経済の防衛に努めました。こうした変化の一部は世界経済における不均衡と緊張を招きましたが、概ね堅実な成長に助けられ、各国政府はなんとか切り抜けてきたのです。 中央銀行は、新しい経済の中で積み上がったリスク対策を怠りました。中央銀行は1980年代にモノの価格としてのインフレ対策をマスターしたかに見えますが、多くの場合、資産価格バブルの認定は困難で、金融政策の発動には慎重であるべきと考えていました。また、バブルがはじけても、雇用、生産、貯蓄、消費など、「実体経済」へのダメージは、大幅な利下げによって対応可能だと主張しました。しかし、このような考えは間違っていました。 金融機関の規制・監督当局は、もはや実体から乖離していたのです。金融イノベーションと競争によりサービスは大きく拡散し、それまであまり相手にされなかった企業や家庭向けのものも生まれました。しかし、規制当局は、単純な「合理的市場」理論に魅了され、市場と人間の複雑性、心理、組織行動、システミック・リスクという現実を忘れてしまいました。 こうした厳しい教訓を踏まえた上で、さらに先を見越して準備を重ねていく必要があります。 1944年、ニューハンプシャー州ブレトンウッズに集まった各国代表は、新たな世界的取極めを形成するチャンスを捉えました。彼らは、3週間にわたり、世界の主要経済国間の金融・商業上の原則、組織、手続きの体系を確立しようとしたのです。 その後の65年間で世界は大きく変わりました。現在の変動は、まさに世界の地殻変動です。 すでに、勢力関係、組織、国際協調の面で変化の兆候が見られます。こうした変化は、ひとつには新たな環境に当事者たちがいかに適応するか、またひとつには回復の速さに、さらに世界の資本、技術、人材が誰の手に委ねられ、どう利用されるかに、そしてまた、各国がいかに協調するか、あるいはしないか、によって左右されることになるでしょう。 変化する環境 わずか10年余り前のアジア金融危機の際、国際社会は、中国が固定相場制を維持して経済不安の連鎖に歯止めをかけられるかどうかに重大な関心をよせました。今日、中国は、世界の経済大国となり、世界経済安定化の大きな力となっています。中国とインドを合わせると世界生産の8.5%を占めています。両国をはじめ途上国は先進国よりはるかに急速な成長を続けています。 米国も、今回の危機により大きな打撃を受けました。しかし米国は回復力の高い国です。その将来は、巨額赤字への対策、国の信用と通貨価値を損なうインフレを伴わない回復、そして安全性と健全性を高めつつイノベーションを維持するための金融システムの抜本改革にかかっています。米国はまた、開かれた貿易、投資、人材やアイデアという最大の切り札を維持できるよう、国民が変化に適応するための支援を行う必要があります。 日本は、金融危機に引き続き政治の大変動を経験した最初の主要先進国でした。先の選挙で民主党が選ばれたことにより、日本の歴史上初めて、持続的な二大政党を基礎とした民主主義が確立されるでしょう。 しかし、日本の旧来の輸出主導型成長モデルが、今後の日本自身と世界のニーズに合致するかどうか、換言すれば、米国の消費に大きく依存しない、より「均衡のとれた」世界経済の中で持続可能かどうかは不透明です。高齢化が進む日本では、これまでとは異なる消費ニーズが出てくるでしょう。成長構造の多極化した世界経済は、とりわけ抜群の省エネ能力を誇る日本にとって新たな市場をもたらすかもしれません。 今回の危機から強い打撃を受けた中・東欧諸国では、まだ問題は全く終わっていません。ただし、域内の論争や交渉は多々あるものの、欧州各国同士が、相互依存を認識しているのは喜ばしい戦略的ニュースです。今回、欧州はプレッシャーを受けても分裂しなかったのです。 東南アジアもまた、機会をどう捉えるかにもよりますが、今回の危機によって評価を高めたと言えるでしょう。この地域は、二大新興国であるインドと中国の間に位置しています。ASEANはこのチャンスを知っていたように、他地域への展開を進める一方で、域内の統合を進めてきていました。インドネシアの大きな存在感とベトナムの影響力増大を踏まえれば、経済混迷の中でのASEANの堅調なパフォーマンスは10年前と比べ際立っています。 それ以外の国々に対する今回の危機の長期的影響は、特に原油価格など、近年、大きな収入をもたらした一次産品次第となる可能性があります。原油価格がバレル当り100ドルであれば、これらの国々は堅調です。ところが、30ドルでは、ほとんどの国が深刻な状況に陥ります。このような石油と一次産品に依存した経済は、世界が化石燃料依存からの脱却に向けて努力している状況で、投資家が様々な「資産クラス」に資金を出し入れして一次産品価格が乱高下する中で、砂上の楼閣のようなものです。これらの国々は、多様で幅広い基盤を持った経済発展を進めるべく、こうした収入を賢明に利用するでしょうか。これは、ロシア、湾岸諸国、そしてラテンアメリカとアフリカの一部諸国にとっての課題です。 危機以前には、多数のアフリカ諸国が目覚ましい高成長を持続的に記録しました。危機を乗り越える過程で、新たな機会が生じましょう。中国のいくつかの製造会社は、生産拠点のアフリカ移転を検討中です。資源開発とインフラなど、アフリカへの展望を持っているのは中国だけではありません。ブラジルは自国の農業開発の経験をアフリカに提供したいと考えています。インドは鉄道を建設中です。こうした傾向はまだ始まったばかりであり、今後さらに発展するでしょう。 ブレトンウッズに集った各国代表が十分理解していた通り、勢力図の変化を正しく理解することが、将来を形成するための基礎となります。ブレトンウッズ・システムの政治的基盤は、第一次大戦後の無責任という共通の体験と、第二次大戦後のパワーバランスの明確な評価により築かれたものです。この勢力関係とそれを結ぶ市場の性格が変化すると、システムそのものが時代遅れに見えてきます。 次の課題:責任あるグローバリゼーションか? 旧秩序は過去のものとなりました。悲嘆にくれて時間を無駄にしている時ではありません。今こそ、新たなものをつくり出すのです。今こそ、成長と責任あるグローバリゼーションのための「新秩序」の基礎を築くことができるのです。 グローバリゼーションは、多くの国で高度経済成長を持続させ、何億もの人々が貧困から脱するのに貢献しました。一方、各国経済のつながりが高まったために、先進国に端を発した金融危機が世界的危機へと発展し、何百万もの人々が貧困に逆戻りしました。気候変動のペースが速まるなか、最貧困国が最も深刻な打撃を受けています。2004年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や今年の新型インフルエンザH1N1ウイルスは、当初は局地的な流行でしたが、瞬く間に世界的脅威へと発展しました。国境を越えて人々や物資の往来が盛んになったことで、伝染病の被害は深刻化しました。 グローバリゼーションの時計の針を戻すことはできませんし、すべきでもありません。人々がそう望んでいる訳でもありません。我々は、責任あるグローバリゼーションによって多くの人々にもたらされる莫大な恩恵を発展させながら、その破壊的威力を抑止するための改革を進めることができますし、またそうする必要があります。 責任あるグローバリゼーションの構築には何が必要か 何よりもまず我々は、今日の解決の、そして明日の発展と将来の繁栄の鍵を、途上国が握っていることを認識しなければなりません。 2週間前ピッツバーグで世界の首脳は、G20が先進国と新興国間の国際経済協力の主たるフォーラムとすることで合意しました。これは望ましい出発点です。しかし、G20は他の関係者から独立した委員会であってはなりません。 G20に含まれない160か国以上の他の国々の声を無視することもできません。G20は、より多くの国々を関与させた、国家と国際機関のネットワーク全体にわたる「運営幹事」として機能すべきです。この運営幹事は、上下の階層的にも官僚的にもなることなく、問題の連関性を認識し、相互利益を促進すべきです。それは、ここに集う186か国、すなわちG-186とつながったものであるべきです。 今後は、低成長と高失業率が何年も続くとされています。米国の消費は、もはや世界経済の需要の主たるエンジンとはなり得ないでしょう。ヨーロッパと日本にも限界があるように見えます。中国も、手助けはできますが、来年には信用拡大が問題となる可能性があります。他の途上国は、融資を受けることができれば、世界的景気回復の推進力となることができます。その多くは、国債発行余力があっても、民間セクターのクラウド・アウトを起こさずに妥当な金利で借りようとしても必要な資金が集まりません。世銀グループと地域開発銀行はこれを支援できます。当座の利益しか目に入らないカジノ的資本主義から長期的な生産的投資へとインセンティブをシフトさせる金融規制・監督の強化が役立つでしょう。 第二に、世界の指導者は、バランスがとれ貧困層に配慮した世界経済のためには、成長の多極化が必要だと訴えるべきです。単に中国とインドだけではありません。ラテンアメリカ、東南アジア、そして広義の中東諸国が、今日の投資によって、将来の世界経済の担い手となるのです。アフリカへの投資は、やがて約10億人の市場の統合をもたらし、新たな成長の源をつくるでしょう。 成長の多極化を図るには、インフラとエネルギーへの投資、民間セクターの拡大、世界に開かれた域内統合などによって、成長のボトルネックを解消し、生産性を向上させる必要があります。新たな成長の極は、先進国の資本財、サービス、技術の顧客となるでしょう。 第三に、指導者は持続可能な成長を目指さなければなりません。世銀が先日発表した「世界開発報告:開発と気候変動」が指摘するように、途上国は、気候変動による被害想定の75~80%を被るにもかかわらず、依然として電気を利用できない人が16億人以上いるのです。途上国、そして彼らの利害が反映される仕組みが必要です。途上国は、技術の導入、エネルギー効率の改善、植林への投資を通じた低炭素型成長に資するインセンティブと資金を必要としています。 第四に、最も脆弱な人々を保護するメカニズムが必要です。2週間前のピッツバーグ・サミットにおいてG20首脳は、G8ラクイラ・サミットで打ち出された200億ドルの食糧安全保障イニシアティブに対する支援を再確認しました。その際、各国首脳は世界銀行グループに対し、各援助国、機関と協力して、低所得国への農業支援拡大のためのマルチドナー信託基金設立を要請しました。二国間援助では概して、特定のセクターや国に資金が集中しがちです。しかし、こうしたより包括的かつ多国間のアプローチをもってすれば、資金のプールと革新的な取り組みをより効果的に支援し、食糧生産バリューチェーンの全過程で食糧安全保障及び持続可能な農業システムを構築することができます。しかし、紙の上の誓約だけでは、土に種をまき、空腹を満たすことはできません。現在、アフリカ東部で起きている干ばつが示すように、飢餓や飢饉は常に現実の脅威です。ですから、このイニチアティブの実現に向けて迅速に行動を起こさなければなりません。 食糧危機、燃料危機、そして金融危機は、ミレニアム開発目標達成に向けた歩みを狂わせ、何年にもわたる成果を帳消しにしました。我々は最貧困国が圧倒的な衝撃波に対して無防備とならないような保険を提供することにより、国際金融における構造的欠陥を埋めなければなりません。世銀グループは、G20と開発委員会の支持を得た「危機対応ファシリティ」の案をさらに具体化していく所存です。このファシリティは、多くが紛争が終結したばかりの最も脆弱で不安定な国々に対し、迅速かつ効果的な援助をタイムリーに行うためのものです。対象を絞ったセーフティネットから、中小企業対策、マイクロファイナンスに至る手法により、無防備な人々が大きな混乱に巻き込まれた場合の衝撃を緩和することができます。 我々はまた、金融・貿易の保護主義に対抗することで、政府による景気刺激策から民間セクターの需要、投資、貿易による成長へ引き継がれるよう努めなければなりません。IFCではこのほど、銀行、株式、インフラ、債務再編へ投融資を行うための新たなアセット・マネージメント会社を設立しました。我々は、政府系ファンド、年金基金、その他の資産運用ファンドなどから途上国の生産的な民間セクターへ資金を流しながら途上国の金融市場育成を支援できます。 世銀グループの役割 昨年、世銀グループは危機に対応するため、過去最高の590億ドルの金融支援を行いました。国際復興開発銀行(IBRD)の貸付承諾額は、ほぼ3倍の330億ドルに達し、国際開発協会(IDA)の融資承認額も過去最高の140億ドルを記録しました。さらに、国際金融公社(IFC)の新規プロジェクトの50%以上はIDA対象国向けでした。経済回復と雇用創出に不可欠なインフラ支援は210億ドルに達しました。最も脆弱な国の衝撃を和らげるセーフティネットなどの社会的保護プログラムも45億ドル増額しました。 IFCは、強力なイノベーションと資金動員力を組み合わせており、 銀行資本増強、貿易金融、インフラ、マイクロファイナンスといった一連のイニシアティブを立ち上げました。 IBRDは今年度、さらに記録を伸ばし、400億ドルの貸付承認を見込んでいます。今やIBRD貸付に対する需要は明らかに、世銀・IMF合同開発委員会が昨年のコミュニケで要請した1000億ドル規模を大きく上回りつつあります。IDA融資適格国もまた、大幅な資金ギャップに直面しています。我々は、最貧困国における、保健、教育、セーフティネット、インフラなどの基本的支出項目の資金不足は、およそ116億ドルに上るとみています。 先進国の予算にも制約があることは承知しています。しかし、責任あるグローバリゼーションには、責任あるステークホルダーが必要です。これまで以上の行動は可能であり、義務であります。 世銀グループが危機後の新しい世界で果たす役割とは? 世界銀行グループは十分な資本的基盤を持つことによって、グローバリゼーション、開発、金融危機といった課題に対する世界規模の対応において主導的役割を果たすことができるでしょう。 我々は、官民両セクター、また低所得・中所得いずれの途上国とも協力できる能力を備え、全世界レベル、現地レベル、またセクター横断的にも活動を転換しています。また、開発に関する世界的なベストプラクィスを更新させながら蓄積させ、世界でも有数のリスク管理と銀行業務能力、健全なバランスシートに裏打ちされたレバレッジ能力を備えています。さらに、重要性がますます高まる国際公共財に関する取り組みへのリーダーシップ、世界的な触媒機能と「会議力」を発揮しています。このように世銀グループは、国際開発金融機関の中でも独特の存在となっています。 危機後の世界における世銀グループの役割を形作る4要素。 第一は、伝統的及び革新的な開発金融です。世銀グループのクライアントからは、世銀が、危機後においても十分な資本的基盤を有し、世界の経済成長と貧困撲滅の支援に必要不可欠な資金を引き続き提供できる機関であるべきとの強い要請があります。世銀グループは、いくつかの形でこの役割を果たすことができます。我々は、不況の際に景気対策を実施する余力のない国々に対して、財政刺激策と社会保障などの基本的な予算の確保に貢献できるほか、世界の景気回復を支えるため世界規模の需要拡大を支援できます。貿易を金融等によって支援することができます。また、政府による危機対策から民間セクター主導への引き継ぎという重要な局面を支援できます。さらに、投資を通じて、説明責任をもって迅速に対応する公共セクターと活力にあふれた民間セクターを備えた、成長の多極化を実現することにも貢献できます。 第二は、知的支援の提供です。世銀グループには、官民両セクターでの実地の経験、研究、学習に基づく、開発に関する世界的ベストプラクィスが蓄積されています。我々のクライアントは、実務に基づいた知識とイノベーションの蓄積の中から、実情に合致した最適の支援が提供されることを期待しています。 第三は、国際公共財への取り組みです。気候変動や感染症など喫緊の地球的課題では、国別のプログラムに根差した世界的な働きかけに政策助言や投資を結び付ける、セクター横断的な組織的対応が必要です。すでに世銀グループは、「気候変動投資基金(CIF)」を通じて多額の資金を動員しつつあります。低炭素型成長戦略をとるクライアントへの技術移転や、現在、業務を拡大中の保健システムの強化といった面で重要な役割を果せます。世銀グループはまた、国際的ルールに則って、強靭でダイナミックな貿易・金融システムという公共財を支えることができます。 第四は、現在予見できないものの、将来必ず起きる危機です。感染症の世界的流行、自然災害、人災、あるいは経済危機、社会危機かもしれません。世銀は、最近の食糧危機、インド洋大津波、あるいはメキシコや東アジアの金融危機の際に行ったように、将来の危機に対し株主の利益のために幅広い技術と手段を動員することができます。 世銀は、自己資本を最大限活用するため、多数の金融措置を講じています。具体的には、利子諸手数料の引き上げ、自国通貨建て払込資本による貸付のための関係加盟国との協力、「ボイス」改革に沿った特定国の増資、緊縮的予算規律、さらに長期貸付の利子引き上げなどです。こうした措置では、連帯責任と全加盟国の貢献が重視されます。それでもなお不十分かもしれません。IBRDが現在のペースで貸付を続けると、2010年半ばには資本不足が制約となるでしょう。IFCはすでに上限に来ています。 無論、将来のことは断言できません。回復が行き詰まったり、遅々として進まない場合、すでに広範な任務を負っている世銀グループに無理を強いて、リーダーシップをとれなくするリスクを冒すべきでしょうか。食糧危機や感染症の世界的流行、あるいは自然災害が新たに起こった時に、我々は、世銀グループが手を出せないという状態を容認できるでしょうか。 私は、昨日、世銀グループが将来の開発課題に応ずるために十分な資金を有することを確保するため、2010年春までに本件について決定を行うとコミットした開発委員会に感謝しています。これは、20年ぶりの世銀の一般増資に向けた重要な一歩です。 改革アジェンダ 変化を続ける世界経済に対して貢献するためには、機敏、迅速、有能で説明責任を備えた組織が必要です。世銀グループは、その正統性、効率性、有効性、説明責任を強化し、国連、IMF、他の国際開発金融機関、ドナー、シビルソサイエティ、そして今や開発の重要な担い手となった財団との協力関係を一層深めていく所存です。我々は、株主の要請への対応、パフォーマンス改善、そして加盟国議会からの支持獲得のために様々な改革を推進する重要性をよく認識しています。 以下は我々の取り組みの具体例です。 • 結果重視、現場への権限委譲、ジェンダー、投融資改革、人材育成に焦点をあてた開発効果の向上。 • 説明責任と良いガバナンスの促進。世界的な腐敗防止の取組み、透明性と情報公開の改善、近く公表される「セディージョ委員会」の勧告が含まれます。 • 費用対効果改善の続行。 しかし、我々にはさらに踏み込んだ行動が必要です。 ブレトンウッズ体制は、権力が限られた国家に集中していた時期に44か国によって確立されました。植民地の独立の大波はやっと揺れ始めたばかりであり、限られた途上国は歴史の主体としてではなく客体として見られていた時代でした。しかし、そうした世界はとうに過ぎ去りました。政治経済を取り巻く新たな現実では異なる体制が必要です。 途上国が解決の一部なのであれば、議論にも含まれるべきです。国際社会にとって必要な世界銀行グループとは、21世紀の世界経済の現実を体現し、増え続けるステークホルダーの役割と責任を認識し、そしてアフリカにより多くのボイスを与えるものです。 世銀グループ内で、途上国と経済移行国のボイスと参加を高める改革の第一段階は、1年前に終了しました。その一環として、サブサハラ・アフリカを代表する理事を一名増加し、途上国の投票権割合を44%まで引き上げました。昨日の開発委員会では、途上国の投票権割合を少なくとも3%増加し、最低でも47%へと引き上げることの重要性が強調されました。最終的な決定は来年の春季会合で行われる予定です。我々は、引き続き精力的に動く必要があります。長期的には、新興国も、貧困途上国の開発を支援する責任を分担しているという状況を踏まえ、途上国の投票権割合を50%まで引き上げられるかどうかを検討してみるべきです。世銀グループは、世界全体の環境を、より的確に反映していかなければなりません。 終わりに 議長、 今回の危機の発生前からすでに、旧来の国際経済秩序は、現実の変化に追いつくために苦闘していました。今日の大変動は、旧秩序と現実との乖離及び差し迫ったニーズを顕在化しました。変化に追いつき、将来に向けて前進するのは今なのです。 新たな多極型の成長を反映させた国際的な政治経済システムが必要です。新興経済大国に対しては、なおも何億人もの貧しい人々が暮らして、驚くほどの開発問題を抱えている点を認識しつつ、世界の「責任あるステークホルダー」として参加を促す必要があります。他方で、先進国のエネルギーや支援を取り込むことが必要です。財政赤字の重圧や、競争力への不安を抱いている先進国の国民は、台頭する新勢力も責任の一端を担うべきだと感じています。最貧困国や最脆弱国、安全な水にアクセスできない9億人もの人々、紛争やガバナンスの欠如ゆえに貧困から脱け出せずにいる「底辺の10億人」に対して、支援の手を差し伸べなくてはなりません。 とはいえ、それは手をこまねいていて自然に実現することではありません。 問題は各国の指導者が、そうした変化の操縦のために協力できるかどうかです。彼らは当然、国民の代表者として、自国の利害に縛られるでしょう。その一方で、共通の利益を、単にケースバイケースではなく、「責任あるグローバリゼーション」を反映した機関を通して、認識し構築することも迫られるでしょう。 ブレトンウッズ体制が今、目の前で抜本的に見直されています。今回は、ニューハンプシャー州で費やされた3週間よりも長い時間がかかるでしょう。当時よりも多くの参加者がいるでしょう。しかし、それは当然です。次回の大変動がどのようなものであれ、それはすでに形成されつつあります。問題は、我々の手で次の世界をつくるのか、次の世界に飲み込まれてしまうのかの選択なのです。 |